2025年7月29日/最終更新日時:2025年9月24日
かつて、猫は短命な動物と思われていました。屋外で自由に暮らす猫が多く、交通事故や感染症、栄養不足などによって、10歳を迎える前に亡くなることも珍しくなかったのです。
しかし、現代では猫の平均寿命は大きく伸びています。1990年代には10歳前後だった寿命が、今では15歳を超えるのが一般的になり、20歳近くまで生きる猫も増えてきました。これは人間でいえばおよそ百歳に相当します。猫たちはまさに「長寿社会」のなかで生きているのです。
その背景には、いくつかの大きな変化があります。
- 動物医療の進歩
ワクチンの普及により感染症のリスクが減少し、血液検査や画像診断によって病気の早期発見・治療が可能になりました。 - 食事の質の向上
昔は人間の残り物や手作りの食事を与えることも多かったのですが、現在では栄養バランスが計算された総合栄養食が一般的です。さらに、各ライフステージ(子猫・成猫・シニア猫)や体調(腎臓サポート・体重管理など)に応じたフード、猫用サプリメントも充実し、健康維持に貢献しています。 - 飼育環境の改善
室内飼いが普及し、事故や感染症、有害物質の摂取などのリスクが大幅に減りました。室内では温度や湿度の管理もでき、猫が安心して暮らせる安定した生活環境が整っています。
しかしながら、寿命が延びたからこそ浮かび上がってきた問題もあります。それが腎臓疾患です。
なぜ腎臓病はそれほど危険なのか
腎臓は、血液から老廃物を除去し、体内の水分を調節し、一部の重要なホルモンの生成に大切な役割を果たしています。ところが猫はもともと腎臓が弱い動物で、加齢とともにその機能が少しずつ衰えていきます。15歳を超えるシニア猫のうち、およそ3~4割が何らかの腎臓疾患を抱えているともいわれており、事実、シニア猫の死因の中で最も多いのがこの腎臓病なのです。
慢性腎臓病は、進行すると体に様々な不調をもたらします。
食欲の低下、体重の減少、頻尿や脱水などが見られるようになります。しかし厄介なことに、腎臓はかなり機能が低下するまで明確な症状が出にくい臓器でもあります。
では、この腎臓病は予防できるのでしょうか。
自然な老化に伴う慢性腎不全を完全に予防することは、現在の医療をもってしても困難です。ただし、リスクを軽減する措置はあります。
- 非常に有害なユリなど、既知の毒素を避けること
- ウェットフードや水飲み場を通じて、適切な水分補給を維持すること
- 尿路感染症や急性腎疾患を早期に発見し、迅速に治療すること
早期発見の重要性
慢性腎臓病はゆっくりと進行し、痛みも伴わないため、特に7歳以降からは定期的な検査が重要です。これは獣医師によって、血液検査によるクレアチニン(CRE)やSDMAの値を調べたり、尿の状態、血圧の数値などを参考に行われます。
定期的な血圧検査と尿検査で、症状が現れる前に病気の早期発見が可能です。
病気の進行を遅らせることはできるか?
一度破損してしまった腎臓の細胞を再生することは不可能であるため、慢性腎臓病を完全に治すことはできませんが、獣医師の協力のもと、以下のような方法で早期に対応することにより、猫のQOL(生活の質)を改善し、病気の進行を遅らせることで寿命を大幅に伸ばすことが可能です。
- リンとタンパク質が少ない腎臓にやさしい食事を与えるようにする。
- 常に十分な水分補給を心がける
- 血圧や二次症状(嘔吐など)をコントロールするための薬を服用する
飼い主さんにできることは、日々の様子をよく観察し、ちょっとした変化に気づいてあげることです。
例えば、「最近水をよく飲むようになった」「おしっこの量が増えた」「食欲がない」など、普段との違いがあれば、早めに獣医師に相談することが大切です。
健康に歳を重ねるために
長く生きることができるようになった今だからこそ、飼い主さんとしては、「どうすれば健康に、そして穏やかに歳を重ねていけるか」を考えたくなるものです。
腎臓病はたしかに、特にシニア猫にとっては、運命的ともいえる大きな壁ですが、正しい知識と備えがあれば、その壁を越えて、愛猫とより長く充実した時間を過ごすことができるはずです。
今では、腎臓病とともに生きるための情報や治療の選択肢も整いつつあります。
あきらめずに、一歩ずつ向き合っていきましょう。